JR西日本事故のコメントにおけるバリューという見方の欠如
(H17年5月3週号)

1.安全と効率の関係の無理解
JR西日本の事故の問題で、安全と効率の関係が問題になっている。そこで出るコメントとして、効率向上のために安全を犠牲にしたから、「効率追求自体」が悪であるいうものである。しかし、これは間違いで、JR西日本は「真の効率追求」をせず、「間違った効率追求」をしたというべきである。
鉄道にとっては安全は最高の品質である。それを軽視した効率追及は、建設工事でいうと、「手抜き工事」をして大きな利益を出したのと同じである。真の経営効率向上追及と言えない。トヨタの製造業として最高の利益達成は、その高品質を抜きにしては説明できない。
そんな簡単なことが理解できず、「効率追求自体」が悪という間違った考えは、バリューという考えを知らないためであろう。
日本人は、バリュー(価値)という日常用語がないように、なじみがないのか誤解が多い。アメリカのスーパーでは、バリューアップ(Value up)という言葉があるように日常用語である。「お買い得」の意味である。

2.バリューという考え
マクドナルドが、かって、バリューと言っていた。当時の藤田社長は、安くなったが、品質は落ちていないと言っていた。これがバリューの意味である。デスカウントと違う。

3.価値分析(Value Analysis: A)におけるバリューの定義
VAでは、次の式でバリュー(価値)を定義する。


Fは機能であるが、顧客要求品質と置き換えていいであろう。マクドナルドでは製品の品質である。Cはコストである。これは価格に反映する。この式で言えば、同じ品質であっても、コストを減らすと、分母が減り、分数全体は増加するのでバリューは増大する。
したがって、バリュー向上によるコストダウンは「安かろう、悪かろう」ではない。
VAは、要求機能を犠牲にしてまで、コストを下げるのは問題外としている。
これをもっと、一般化すると、Fは目的であり、Cは目的達成のための手段にかかるコストである。すなわち、目的達成のための手段をムダがないように効率化すると、コストが減るので、バリューは向上する。


すなわち、目的があって、次にそれを達成する手段が存在する。目的と手段は同じレベルになく、下図のように、どちらに重点を置くか、バランスをとる関係にない。

目的を犠牲にして、手段をけちるのを「本末転倒」という。

4.時系列から見たバリューの見方
品質を得るには、コストを投入する。その関係は時系列では下図のようになる。


5.QDCから見たバリュー
日本には、企業活動で品質(Quality)、納期(Delivery)、コスト(Cost)の3つの製品についての要求を、簡単にQDCという。私は、この順序をQCDと言わない。その理由は、上記のバリューの考えを基本にしているからである。
すなわち、品質、納期は目的であり、コストはそのための手段の費用であるから、下記のようになる。分子から先に言うと、QCDの順序でなく、QDCである。


すなわち、品質要求と納期要求を満たし、かつ、できるだけ無駄のない方法でその要求を達成すると、分子は同じなのに、分母が減るので、分数値は高くなり、製品なり、システムなりのバリューが向上するのである。これが真の効率である。
これを時系列にすると下図のようになる。しかし、計画の流れは点線のように逆になる。目的達成のために手段が存在するのである。


目的があって、手段があるのである。

6.安全と効率
鉄道交通の目的は、下図のように、顧客に安全で時刻が正確な交通手段を提供することにある。それを安価に提供できるかは、効率的な手段の選択にかかっており、その手段の選択は、点線の方向になる。


安全を犠牲にした安価な手段を選択するのは、「本末転倒」である。手抜き工事である。

7.企業のバリューアップ追及
バリューアップは、目的と手段を「はかり」にかけない。目的達成のために、より効率的な手段(技術改善、マネジメント改善)を追求する。すなわち、効率追求と目的達成とは同じことである。安全という目的達成ができなかった原因は、効率追求であるというのは間違いである。それは目的達成を忘れ、真の効率追及になっていないのである。ISO9000:2000の用語定義3.2.15「効率efficiency」では「達成された結果と使用された資源との関係」とある。達成された結果が目的であり、使用された資源がコストである。ここでも効率面を考えるとき、目的達成に無関係のコストはあり得ない。
なお、同じ用語定義3.2.14「有効性」の定義があるが、これは目的達成度だけで、手段との関係はない。この違いを正確に理解することである(このホームページの「基礎知識」コーナーの「有効性と効率は別のものか?:H13年1月1週号」参照)