「中小企業のためのISO9001」邦訳、遂に発刊・その1/2
(H17年6月2週号)

この原書は2002年6月発刊で、当時のISO本部の隔月機関紙「ISOマネジメント」誌で期待の書として大きく宣伝された。邦訳も期待され、2002年末くらいには発刊されるということであったが、次第に遅れ、約3年遅れで、今年3月に発刊された。

遅れの原因は、訳者がこの本を高く評価していないことであることは、この本の訳者の序文で明らかで、94年版向けの前著に対しても、反対であったという。94年版の邦訳の序文ではTC176委員の久米均氏、中条武志氏がこの本を絶賛していたし、ISO本部の隔月機関紙「ISOマネジメント」誌によれば、前著が世界的に好評なので、今回、2000年版向けを発行したといっており、評価が全く異なる。

このため、今回の訳者は、この本は誤解を招く箇所が多いということで、そのために、巻末に47個の訳注が追加された。30頁ほどある。翻訳書としては異常である。原書が問題なら、本来、原著者と連絡し、その了解の下に、追加説明を書くことにより原書に対する訳注の意味があり、顧客である読者への満足を与えることになろう。

訳注の47項目のうち、25項目は別に解説の必要がなく、もともと誤解する恐れがないと考えられる。
後の項目のほとんどは、もっと誤解を増幅する恐れがあるようだ。中にはプロセスアプローチのように、原書に対するコメントでなくISO9001:2000本文そのものに対する批判で、その解説に2頁を費やしていた。訳注のプロセスアプローチの説明は、日本のある審査機関のキープロセスの考えと同じような内容であった(審査/コンサル体験談コーナー「2.審査現場の問題事例」の「キープロセス、プロセスアプローチ、PDCAなどの審査:H15年11月1週号」及び「キープロセス、プロセスアプローチ、PDCA審査・後日談:H15年11月4週号」参照)。

原書は、中小企業向けのためか、分けがわからなくなりそうなプロセスアプローチの説明はさらりと逃げている感じである。

なお、5.5.2での管理責任者の数は、JISの参考では「一人である必要はない。」としている。この原書では「組織を代表して全般的な責任と権限をもてる者は、一人である。」と複数を否定している。対立しているがこれは訳注にはない。

原書の説明が間違いであると訳者が明確に指摘したのは、現時点ではとりあえず次の12項目と考えられる。いずれも原書が誤解を招くものとは思われず、かえって訳注が誤解を招くおそれがある。2回に分けてコメントする。

番号
原書訳頁
原書の解説
訳注
訳注の解説概要
訳注への私のコメント
1
p.97
7.3.1:次のような実証済みの設計を適用し、微細な修正をしている組織には設計はない。
・以前作ったドレス又はスーツに布地を1枚足すようにという依頼が顧客から受けた仕立て会社
・顧客からクラッチの最終調整によるカスタム化の要求を受けた空圧クラッチの設計仕様書を持っている小さな工作所
18
これらは顧客満足という観点から設計行為である。 簡単な修正に対してまでも、設計計画、設計審査、設計検証、妥当性確認を行うのは意味がないという考えであろう。出荷前の顧客要求達成確認は製品検査で行うことになる。私の経験例では、大手企業であるが、工業用モーターの標準取り付け穴位置を特定顧客の要求で微修正する例があった。これは簡単な作業用図面変更で、営業部門が工場部門に直接要求し、設計部門は経由しなかった。図面番号の枝番、受注番号は変わるが、モーター品番(基本性能)は変わらない。訳者として原著者の確認情報が必要。
2
p.98
7.3.1:組織にとって初めてのもの若しくは新規のものに設計が行われる。
19
顧客からの要求事項を満たすために製品仕様を決めることが設計で、組織にとって新規なのか又は初めてなのかは問わない。 新規でないということは、過去に作成した製品仕様があるということである。同一仕様の品物は顧客の要求が繰返しあっても一々設計はしないはず。新規の場合は、仕様書がないので設計が不可欠。
3
p.105
7.3.5:設計検証で発見した不適切に対して決定した対応の効果は「次の」設計のレビューで確認すべきである。
21
「次の」設計レビューに限定されない。予定されている「次の」設計のレビューで効果を確認することも可能。 原書では設計レビューの意味は広範囲で英語の「次の」の意味は広範囲の意味があり限定されていないようだ。訳注の2つの「次の」の違いはかえって分かりにくい。訳者として原著者の確認が必要。
p.106
7.3.6:設計上、極限の高温及び低温状態におかれた場合の空調システムの性能は、そのような極限状態でない限り妥当性確認はできない。
22
そのような極限状態を作りそこで妥当性確認をすべきである。 この事例は94年版と同じ。なお、原書では94年版同様、「100年に1度おきるような」という説明が文脈上つながっている。原書は「全体性能」の妥当性確認である。原著者の確認が必要。
5
p.109     111
7.4.1:アウトソーシング例として、熱処理、洗浄、亜鉛メッキ、塗装、IT, 一般的な保全をあげている。
23
原書は「アウトソーシング」を多用しているが、規格では一切使っていない。規格の目的はそのプロセスの管理の要求であるから「アウトソースしたプロセス」が正しい。資源の調達はふくまれない。 原書でも、「改訂版では『アウトソースしたプロセス』の管理を確実にすることが追加になった」と明確に解説している。多用というが、解説文中、「アウトソース」が3回(図を含めると5回)、「アウトソーシング」が3回(図を含めると4回)である。もともと、「アウトソーシング」とは「あるプロセスをアウトソースすること」であるから、必然的にアウトソースしたプロセスを伴う。そのプロセスが品質に影響するなら、その管理を確実にするということが規格の要求である。何故、「アウトソーシング」用語にこだわるのか理解できない。なお、原書では、資源供給者にはサプライヤーを使用しておりアウトソースと使い分けているようだ。
6
p.114
7.4.3:購買先での検証例として次の3つあげている。
・インテリア装飾会社が、納品前にカーテン生地を見に行く。
・DIYの店が卸売り店や小売代理店で購入する。
・研修機関に出向き従業員が研修を受けているところを見に行く。
25
この例は規格の意図を反映していない。注文した商品を注文先にいって、商品が受取り可能か否かを判断するケースを想定している。機械を購入するとき、注文先で性能確認するようなケースが該当する。 原書の3つの例は皆、注文先に行って商品(サービスを含め)が受取り可能かを検証しているケースである。どこが反映していないか不可解。逆に、機械を購入するときは、注文先が顧客に納入し据付け後、立会いで試運転して性能確認することも多く、例としては適切ではないとも言える。