何故、ISO9001:2000のプロセスアプローチは分かりにくいか?
(H17年6月4週号)

1.アプローチ(approach)とその3つの要素
ここで使っているアプローチ(approach)はランダム英和辞典の「4.(仕事、問題、学問、作品などへの)接近方法、研究方法、取り組み方、手引き」、「広辞苑」の「A学問・研究で対象への接近のしかた、研究法。『自然科学的アプローチ』」に該当する。
すなわち、アプローチの明確な説明には次の3つの構成要素の説明が不可欠(図1参照)。
@何にアプローチするのか、すなわち、対象物であり、その内容である。
A何をねらって対象物にアプローチするのか、すなわち、アプローチする目的である。
B別のアプローチとの違いはどうか。

図1

 

例えば、富士山へのアプローチでは、対象は@富士山であり、A目的は富士山の山頂に無事に登ることであり、B代替アプローチには富士宮口、須走口、吉田口などがある。
富士宮口は短時間で登山でき、須走口は自然を楽しむことができ、吉田口は途中山小屋が多く、ゆっくり登れ、途中でご来光も拝めることができるなど、アプローチのそれぞれの違いが明確である。

2.「リエンジニアリング」のプロセスアプローチ
(1)プロセスの意味

企業経営問題に対して、英語のプロセスをアプローチに使ったのは、1993年発行のアメリカでハマーとチャンピー共著の「リエンジニアリング革命」である。従来の職能的なアプローチでなく、企業の一貫したプロセスを重視して画期的な改善を達成するプロセスアプローチを提唱した。すなわち、その提唱の説明には図2のようにアプローチの3つの要素が明確である。


図2

キーワードは4つあるが、中心となるのは「プロセス」あるいは「ビジネスプロセス」である。このプロセスの意味は単なる現状の業務プロセスの意味と異なる。
定義は「1つ以上のことをインプットして、顧客に対して価値あるアウトプットを生み出す行動のプロセスの集合」である。すなわち、「顧客に価値を与える企業内のあるべき一連のプロセス」である。

「リエンジニアリング革命」の3つの成功事例の1つにIBMクレジットの例がある。
改善前は、顧客の信用調査依頼(インプット)から顧客への回答(アウトプット)までにかかる期間が平均6日、ときには2週間かかり、長いという顧客からの苦情があった。
この問題解決が要求された(A)。この改善対象となるプロセスは図3のように5つのユニットからなる(@)。それぞれのユニットにインプット、プロセス、アウトプットがあり、図3のようにつながっている。
最初、5つの部門ごとの業務プロセスの改善を行ってきたが、効果がなく、むしろ悪化した。そこで、図3の見方を変えた(B)。すなわち、「プロセスアプローチ」の観点から、伝統的な職能部門の壁を越えて試しにマネージャーがある物件を持ち歩き、最優先で5部門の業務プロセスを連続的に処理してみた。なんと90分で処理された。後の時間は何にとられていたのか?


図3

その原因は、5つのプロセスユニットが部門別分業のため、その間の書類移動のための部門間の「手渡し」、「停滞」時間、また、部門間の書類の山のための書類の探しや整理などの時間に多くがとられていたことである。
この「手渡し」「停滞」や書類の山の処理に関するプロセスは、顧客への付加価値を与える業務プロセスではない。ムダなプロセスである。「リエンジニアリング」のプロセスの意味はこのようなムダを省いた真に価値あるプロセスのことである。
(2)プロセス分析をすることはプロセスアプローチではないこと

図3のようなユニットとそのネットワーク分析はプロセスアプローチではない。企業活動がプロセス連鎖で動いているという現状を示すだけである。「手渡し」「停滞」などのムダなプロセスが含まれている。職能別アプローチでも図3のような分析はしていたが、アプローチが違うのでそのムダが見えなかった。
(3)IBMクレジットの改善効果

IBMクレジットでは、部門の壁を取っ払い、顧客の依頼1件に対し、基本的に1人で5つのプロセスユニットをこなすようにした。これはこの30年ほど前にすでにトヨタ生産方式で、開発された「セル方式」の1つの適用であると言える。
この方向でのプロセス改善、IT化などを促進した。結局、顧客の信用調査依頼から顧客への回答までの時間は平均6日間から4時間に激減した。書類を整理したりさがす手間もなくなり、扱う件数は100倍に増加した。
「リエンジニアリング革命」の訳者の野田教授は解説で概要「この本の手法はすでに日本ではやってきたことであるが、日本ではこのような体系化が遅れた。」と言っている。

3.ISO9001:2000のプロセスアプローチの説明の分かりにくい原因
「リエンジニアリング」と比較すると次の2つがいえる。
(1)プロセス分析とプロセスアプローチの混同
ISO9001:2000では対象となる組織がプロセス活動をしているので、現状把握のためには『プロセス』分析が必要である。それは『プロセス』アプローチと全く異なる。ムダなプロセスも含まれている。まだ、アプローチを考える以前の問題である。
『プロセス』アプローチだから、『プロセス』分析をしたのでなく、アプローチする対象が『プロセス』活動をしているから、『プロセス分析』をしたのである。

「プロセス」という言葉が『』で示したように、対象(@)の分析方法と改善のためのアプローチ(B)にも使われているため、全く、次元の異なる両者(@とB)を混同している。これがISO9001:2000のプロセスアプローチを分かりにくくしている最大の原因である。

山の地図は立派でも、アプローチを間違えると遭難するのである。同様に、立派なプロセス分析表があってもアプローチを間違えるとIBMクレジットの最初の例のように失敗する。

プロセス分析をしても、すぐに効果的な改善は不可能である。分析はムダを含んだ現状を把握することである。改善は、そのムダを発見し、削除して新しいプロセスを創造することである。それには効果的なアプローチが必要である。この混同には、分析の後に、アプローチの選択があるという改善一般に対する常識欠如が背景にある。

(2)対立する代替案の説明比較がないこと
ISO9001:2000のプロセスアプローチの目的の明記はないが顧客満足であろう(A)。では、顧客満足のために、対象である業務のプロセスに対するアプローチとして、どういう代替方法があり、それとプロセスアプローチがどのように違うかの説明がない(B)。だから、プロセスアプローチの意味や特徴が分りにくい。「リエンジニアリング」はそれまでのアプローチ(職能的アプローチ)を批判しているから特徴がよく理解できる。

4.トヨタ生産方式とそのアプローチの特徴
1960年代に明らかになったトヨタ生産方式は生産効率向上に対する従来のIE(Industrial Engineering: 経営工学)のアプローチと異なるアプローチをとって、従来型のGM、フォードに対し、生産性、品質などで大きな差をつけるようになった。従来型は職能アプローチで、トヨタ生産方式はプロセスアプローチである。したがって、「リエンジニアリング」はこの焼き直しと言われた。
製造のプロセスを図で示すと、図4のような2つのプロセスの格子構造になる。これによって、従来の職能アプローチとトヨタ生産方式のプロセスアプローチとの比較を表1に示す。

表 1
比較項目
アプローチ
格子構造の改善方向
優先目標
在庫に対する考え
ロットの大きさ
職能アプローチ
図4の横軸方向
各職能の稼働率向上。
ある程度は必要。
大ロット主義。
プロセスアプローチ
図4の縦軸方向
リードタイム短縮。
在庫は悪。在庫ゼロ目標。
1個流しが目標。


図 4

5.ISO9001:2000と改善アプローチ
プロセスアプローチは改善を目的とする。ISO9001は、改善のための規格ではない。無理に改善のためのプロセスアプローチをくっつけたため、現状分析のプロセス分析をそのまま、改善アプローチとみなして混乱を拡大している。PDCAモデルも、プロセスアプローチ固有のものではない。プロセスアプローチでも職能的アプローチでも使う。

次の2001年1/2月号の「ISOニュース」記事はムリをしている感じである。
「多くの組織は、未だに、職能的な、階層的な構造によって、管理されているが、製品やサービスは、職能を縦断するビジネスプロセスにより、生み出され、売られ、提供される。これらのプロセスは、多くの資源からインプットをとり、混合し、又は変換し(価値を加え)、希望するアウトプットを生み出す。ISO9001:2000はビジネスプロセスモデルによって、構成されている。このほうが、1994年版の並列的な20項目の構造よりも、より正確に組織が実際に運営している方法を示している。」

この記事では、職能アプローチとプロセスアプローチの対応は明確である。しかし、「リエンジニアリング」やトヨタ生産方式のような改善を意図したビジネスプロセスモデルをISO9001:2000に真正面に規格に入れるのは、ムリであろう。
最近会ったISO9001のベテランM氏は「現在の電球性能のJIS規格はある。不適合も明らかだ。しかし、今後の電球の継続的な性能向上という規格はありえるのか?審査できるのか。同様にマネジメントシステムの継続的改善は審査できるのか。」と言っていた。
野球もルールがあり、審判がいる。審判が試合中にプレーヤーに改善のアドバイスをして公平な審判ができるだろうか。また、第二のイチローを育成するルールがあり得て、かつ、審査できるのか。

このように、企業の改善推進は、審査でなく、コンサルティングである。改善のプロでないISO9001:2000審査員は、あまり力まないで、プロセスアプローチと矛盾したり、妨害したりしないようにするだけで十分である。正確な適合性の審査で企業は十分効果的である。それを無視すると、逆に弊害となる(このホームページの「基礎知識」コーナーの「ISO9001の負のダウン・スパイラル :H15年12月3週号」、「審査/コンサル経験談」コーナーの4.の「アイソムズ」04年12月特集:適合性審査とその付加価値:H16年12月1週号・号外)参照)。ISO9001:2000以降の審査で、審査とコンサルティングの混同が起きやすいのは、規格自体の改善取り込み構想に問題があるのが原因であるようだ。