1.是正処置での「確認する」「注意する」「徹底する」のタブー語の発見
ISO以前であるが、私は、不良品低減の改善テーマで工場改善にはいるときは、工場に不良品の対策書があると、まず、それを過去にさかのぼってチェックすることにしていた。対策書が何十枚あろうと、チェックには時間がかからない。何故なら、チェックは、「確認する」「注意する」「徹底する」という対策書に書いてはならないタブー語を拾いだすだけだからである。こういう用語が、1つでもあると再発する体質が工場にあることの証明になるからである。
2.「すみません」という対策?
20年くらい前に、ある300人くらいの自動車部品工場の改善指導をした。納入先の大手メーカーでクレームがあると対策書の提出を要求された。文章がうまくないといけないとして、現場は知らないが文章のうまい元学校の先生だった人が対策書を書いていた。最後に、「このたびは、重々、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。今後、再発のないように徹底して努力します。」という趣旨のことが長々書いてあった。私は、これは不要ではないかと指摘すると、納入先の品証部門長が書けということであった。
ところがその品証部門の長が異動で別の人になったら、「こんな詫び状的な文句は不要だ。バカにするな。もっと、技術的な中身のある対策が重要だ。」となった。これが正論である。
その頃、ある電気メーカーに行ったら、あるラインの対策書だけ、対策欄に「すみません」があった。これをそのラインリーダーが書いていた。このラインが改善重点ラインとなったことは言うまでもない。体質改善はそこから始まる。
3.JR西日本の「日勤教育」の反省文
4月25日の事故を起こした高見運転手は、昨年6月に100メートルのオーバーランをしたため「日勤教育」を受けた。そのときの反省文20通を「文藝春秋」7月号がほぼ生のまま掲載している。驚くことに再発を確実に予告する再発防止タブー語の氾濫である。事故の再発は起こるべくして起きたといえる。
太字で下線部分が再発防止のタブー語である。
(1)原因の説明に使われている用語
「意識に残る通停確認をしていなかった」「自分でしてしまったことが怖くなってしまい虚偽の報告をした」「通停確認を漫然としてしまい」「集中すべきところを他のことを考えながらブレーキをかけてしまいました」「自分は大丈夫だという心の隙がありました」「遅れを挽回できると自分のことを過信していました」「深く考えませんでした」「安易な考え方で」「未熟者に関わらず」「自分へのうぬぼれ」「厳しく考えず、甘く考えていました」「プロ意識を自覚していなかった」「つい気になってしまい、注意がそれてしまうことがあります」「気が緩んでしまうことがありました」「気持ちの中にのんびりしているなと感じるところはありました。」「弱いのは精神面です」「仕事に対する甘さ」「漫然とした作業」「危機感も全然足りていませんでした」
(2)対策に使われている用語
「意識した確認を行います」「集中し、余計な事を考えず、余裕あるブレーキ扱いを行います」「気のゆるみがないように、停車することを特に意識します」「一番緊張を高め」「早めの判断をし」「しっかりと様子を見て判断し」「注意力を高めます」「緊張感、注意力を持ち続け」「自己満足せず」「貪欲に技術の向上に努めます」「通停確認後は、停車することに専念し」「集中して他のことは考えません」「一番注意力を高め、絶対に停車させるんだという強い気持ちを持ちます」「速度が速いと感じたら早めの追加ブレーキで停止位置の確保に努めます」「柔らかなブレーキ操作」「無駄な力行」「異常時に慌てず落ち着いていられること」「疑問に感じたことはすぐに確認作業をする」「状況を冷静に判断し、適切な処置がとれる」「起きた事象は包み隠さず、ありのままを報告する」「異常時のイメージトレーニングをしておいて、いざという状況になっても落ち着いていられるようにします。」「今後も勉強します」「常に危機感を持っておきます」「一番注意力を高める箇所を通停確認後から列車を停止させる時とします」「頑張っていかなければならない」「素直になる大切さ」「報告は厳正な報告をして、虚偽の報告は二度としません」
改善(再発防止)のタブー語の観点からこの反省文を見ると、高見運転手は納得して反省していないことが明白。上司の姿勢に迎合して、仕方なく、小学生レベルの無意味な文字を選択して書いているだけで、その13日間の屈辱はモラル低下を起こし、無意識のうちに反省は「復讐」に変わる恐れがある。長い反省文は、「復讐」表明とも受け取れる。そして、4月25日は虚偽の報告を含めての見事なまでの再発であり、かつ、その結果は、本人も含め、多くの犠牲者を伴った最悪の再発となった。
この背景には、03年にJR西日本が導入した運転の事故やミスが起きる度に電車区ごとに設定した「持ち点」を減点する連帯責任制システムの導入があり、一種の目標管理システムがあるようだ(このホームページの「審査/コンサル体験談」コーナーの4.「目標管理とISO9001:2000:H16年9月4週号」参照)。これがまた虚偽の報告を生む。
4.会社の体質は経営者の問題
これらのタブー語の羅列の強要がJR西日本の体質である。それをJR西日本の実力者である井出取締役相談役は「国鉄時代の無責任体制を一掃できなかった。原因は大企業病である。」と他人ごとのように言っていた(息抜きコーナー「JR西日本宝塚線事故:6月1週号」参照)。しかし、それは会社の体質でなく、上記のような現場体質に鈍感な経営層の体質の反映であろう。1枚でもいいから現場で反省文を読めば、これは大変なことになっているということが見抜けたであろう。それを見抜けなかったのが経営者の体質であり、同時に会社の体質である。
同じ安全問題で退陣した兼子社長の後を受けたJALの新社長の新町社長は、就任早々、お忍びで羽田の整備場に一人で行ったという。そして、札幌では幹部を締め出し、若手だけでミーティングを開いたという。JALは、すぐではないが、こうして体質が変わるであろう。何故なら、まず、新町社長個人の現場に対する体質が、今までと違うようだからだ。
A社の社長は、現場作業員から、1代にして、中堅企業を築き上げた。毎週、200人ほどの全国の営業マンから営業週報が営業支社長経由で来る。社長は、200枚全部に目を通し、場合によっては指示を書き込んで返す。私はそれをシステム化するためにISO9001:2000に取り込んだ。この社長の行動がA社の体質を象徴している。
| やって見せ、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ (山本五十六大将の言) |
5.職場に拡大する形骸化
しかし、この高見運手の反省文のような空虚な、形式的なことをマニュアル的にやっているのは、製造業も含め、最近、日本の職場で増大傾向にある(このホームページの5月1週号「日勤教育」参照)。
職場の無意味なチェックシート、空虚な個人目標文書、読まない抽象的な掲示など、現場のモラル低下を起こす背景がある(このホームページの「審査/コンサル体験談」コーナーの4.の「回転扉事故:安全とマニュアル化:H16年5月4週号」、2000年版項目別分類コーナー4.2の「無駄な記録は、何故、増加するのか?:H15年7月1週号」及び「客船火災の真因と是正処置:H15年11月2週号」、同コーナーの8.3「『異常』漢字の掲示の異常:H16年9月1週号」参照)。
その背景には、ISO9001が陥りやすい、あるパラダイムが存在する(このホームページの「基礎知識」コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm):H15年3月1週号」、同コーナーの「『ザ・トヨタウエイ』とISO9001:2000:H16年10月2週号」参照)。
安全が重要な公共の交通機関では、その空虚から来る問題は、大きくニュースとして扱われるが、製造現場は大きな事故でないかぎりニュースにならないだけである。書類形式主義やマニュアル主義によって同じ病魔が、ひそかに日本の職場に蔓延している。憂慮すべきことである。
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