| 7月4日に行われた品質管理学会に非会員であるが聞きにいった。ISO9001とISO9004の次期改訂(2008年目標)の進行状況の報告があるというからである。会合の本題より興味があったのは、下記のような参加者からの「変な質問」であった。
1.3つの「変な質問」
(1)ISO9001とISO9004との関係
TC176の飯塚委員から、「2008年改訂予定のISO9004は、ISO9001の導入指針ではない。」という趣旨の説明があったのに対し、参加者(審査員のようである)から「2000年版ではISO9004はISO9001の導入指針であったのに、何故、変更になるのか。」という質問があった。飯塚委員は「2000年版のときから、ISO9004はISO9001の解説でも導入指針でもない。なんで5年前に決まっていることが、今になって、質問に出るのか。」とあきれていた。
しかし、これは、2000年版発行後2年たっても有名なH氏が、ある雑誌の2000年版解説でそのような間違った説明をまだしていた(このホームページの基礎知識コーナーの「間違った解説:H14年4月3週号の項目2・参照)。それが尾を引いているようだ。
4年半後のこの日まで、こういう審査員に審査を受けた会社は大変な迷惑で、企業業績にブレーキとなっている。審査員は企業に行って陳謝すべきである。
(2)内部監査の「効果的」の解釈
上記の質問者は、また、「ISO9001:2000の内部監査では、適合性だけでなく、『効果的』な実施・維持を審査すべきでないか。」というような質問があった。飯塚委員から「日本語が誤解を招きやすいが、ISO9000:2000の用語定義の3.2.4 effectivenessにある通り、ここでの『効果的』とは計画したレベルの達成度を審査するもので、改善・向上を意味しない。」という趣旨の回答があった(このホームページの2000年項目別分類の8.2.2内部監査の「改善提案なき内部監査は不適合?
:H15年12月4週号」参照)。この質問から判断するとこの審査員は、4年半のこの日まで、間違った解釈(不勉強)で審査していたことになる。
この誤解のため、内部監査で「不適合なし」が続くと、わざわざ、内部監査の一環として臨時改善会議を行う例もある。また、内部監査を「初期レベルの審査」「レベルアップした審査」という新語を勝手に作る審査員もいる。企業側は混乱するだけである。
こういう審査員に審査を受けた会社は大変な迷惑で、企業業績にブレーキとなっている。審査員は企業に行って不勉強を陳謝すべきであろう。
(3)ISO9001と企業の業績向上の関係
別な質問者(審査員らしい)は、この「効果的」に対する飯塚委員の説明に不満であったようで、「今、企業の不祥事が多いときに、国民のためにISO9001の審査を企業業績向上にまで拡大すべきである。」というようなことをくどくどと質問していた。飯塚委員は、「ISO9001はそういう審査制度ではない。」と説明していたが、あまりしつこくまた質問者が自己主張するので「それならISO9001を離れ、あなたがコンサル会社を作ればいいのではないか。」とまで言っていた。しかし、質問者(相当重症である)にはピンと来ていないようであった。ここで休憩になったので、私はそれを機に低次元の議論は聞きたくないので会場を後にした。
このような質問をした審査員の審査を受けた会社は、めちゃくちゃな審査をされ、業績低下を起こしている。しかし、審査員は「企業に役に立っている」と思いこんで熱心なのでたちが悪い(このホームページの「基礎知識」コーナーの「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm):H15年3月1週号」参照)。
2.「変な質問」の原因・ISO9000取得と企業業績向上の関係
(1)ISO9001の限界の原則
飯塚委員が「ISO9001は現在ある製品についての保証システムであって、経営を成功裡に継続維持していくことを目的としていない。だから、企業業績向上に重要なマーケッティングや研究開発は除外されている。企業業績向上はISO9004で扱っている。」とISO9001の限界を明言している。しかし、氏のISO9001は購入者のための規格であるというのは弱い説明である。何故なら、購入者は、組織のシステムでなく、良い製品を購入したいからである。進行中のISO9004の改訂では、タイトルが「持続可能な成功への品質マネジメントの指針」となりそうだ。業績向上の期待はISO9001を離れ、手引書としてのISO9004の内容充実に向けられている。しかし、現場のISO9001の審査は逆行している。
最近、「超ISO」という言葉があるが、これはISO9001が企業業績向上に寄与していないという事実の反省を反映しているが、ISO9001にそれを期待した誤解から生まれている。
冷静に考えれば当然のことなのに、「変な質問」発生の原因には、ISO9000取得は企業業績に貢献するし、しなくてはならないという以下に示すような盛んな宣伝がある。
(2)イギリスでの宣伝
イギリスではISO9000(最初はBS5750)は企業業績に貢献するという宣伝で、政府主導で進められた。しかし、この規格認証の限界は、その後のイギリス自動車メーカー・ローバーの衰退と、トヨタの躍進の歴史が象徴的に示している。
イギリスのセドン氏は早くから「こんなISO9000はいらない」(近代文芸社発売)でトヨタ生産方式、デミング、タグチメソッドとISO9000を比較してその限界を指摘している。
(3)2000年版での誤解の増大
2000年版の改訂では、顧客満足の向上、継続的改善、プロセスアプローチなどが追加され、ISO9001が品質保証から企業業績の向上のための規格になったような印象を受ける。しかし、飯塚委員が言うように内容はそれに伴っていない。この矛盾に気がつかない不勉強な審査の発生が「変な質問」の背景にある(「何故、ISO9001:2000のプロセスアプローチは分かりにくいか?:H17年6月4週号の5.ISO9001:2000と改善アプローチ」参照)。
(4)「マネジメントシステム」誌(ISO発行)での宣伝
編集長ロジャー・フロスト氏は03年の同誌の巻頭言で「マネジメントシステムを導入して、品質の向上が見られないのはおかしい。何のために、ISO9001のシステム構築や審査に費用をかけているのか無意味である。顧客もそれを期待している。」としている。ISO本部の広報活動が誤解を拡大している(このホームページの基礎知識コーナーの「ISO本部発行『マネジメントシステム誌・03年1、2月号』コメント:H15年4月2週号」参照)。
(5)付加価値審査の追い討ち
さらに、「企業業績向上のために」として付加価値審査推進が審査員に追い討ちをかけ、誤解は拡大する。中には審査は改善だという審査機関も生まれる(審査/コンサルコーナーの4の「審査は改善?:H17年1月4週号」参照)。
(6)結論
上記のような背景があるから、企業業績向上のためと審査員は張り切り、「変な質問」となり、飯塚委員をあきれさせるのであろう。
当分、この混乱は続くだろう。賢明な企業は「自社の継続的な成功維持のため」、「レベルアップとか継続的な成功維持」と称する「変な」「詐欺的」な審査を避けるだろう。
皮肉な矛盾である。セドン氏ではないが「当社は、ISO9001:2000以外は、トヨタ生産方式で『レベルアップ』をしているので、審査員のご心配は不要です。」と言うべきであろう。
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