1.ISO9001:2000・8.5.2 f)のJIS参考のトラブルとは
8.5.2 f)の英語は「reviewing corrective action taken」である。素直に訳すと「とった是正処置のレビュー」と簡単であり、素直に読めば意味も簡単である。
ところがJIS訳は「是正処置において実施した活動のレビュー」とまわりくどい。そのためか、JIS独自の参考として、f)における“是正処置において実施した活動”とは、a)〜e)の一連の活動のことである、が追加されている。これで一挙に複雑怪奇になった。
2000年版発行時、外資系最大の審査機関主催の研究会で、座長の審査マネジャーは「このJISの参考のように言い切っていいのですかね」と困惑していた。本来、彼がすべきことは悩むことでなく、外資系であるから、欧米の専門家に問い合わせることであった。
いずれにせよ、多くの審査機関では、深入りはやばいと思ったのか審査ではこの問題は避けていたようだ。これで、片がついたと思っていたら、また、最近、次のようなトラブル例が出てきた。
2.I審査機関の情報交換会でのやりとり
最近、S社の管理責任者のY氏は登録しているI審査機関の情報交換会に最近出席した。次のような問答があった。
| I審査機関: |
「是正処置においてf)の実施した活動のレビューとは、a)〜e)の一連の活動をレビューしていなければ、是正処置において実施したことをレビューしたことにならない。」 |
| Y 氏: |
「これはJISの参考であり、要求事項ではないのではないか?」 |
| I審査機関: |
「2000年版でははじめからこういう解釈である。」 |
| Y 氏: |
「それならば参考が要求事項と同等になったという正式文書はあるのか?」 |
| I審査機関: |
「JABからこのように解釈するよう指導を受けている。」(文書提示なし) |
なお、同社は去年のサーベイランスでも審査員が同じ指摘をしたので、ISO本部発行の「中小企業のためのISO9000」を使って審査員に反論したら、最後には、「それは外国の規格でしょう。」などと、トンチンカンなことを審査員が言っていたという。相当、レベルの低い審査機関であるようだ。
3.私のコメント
(1)参考では、当然、不適合にできない。
(2)国際規格の扱いの取り決め違反?
ISO9001:2000規格は国際的な取引に使う国際規格である。したがって、各国で翻訳しても、勝手に解釈を変えてはならないという国際的な取り決めがある。したがって、何かを追加するときは、解釈が異なることのないように、ISO本部に問い合わせ、その証拠(文書)を規格利用者に公開する義務があろう。そうしないで、勝手に変えたら、国際規格の基礎の崩壊である。低次元のエチケット問題である。
(3)ISO本部発行の文献や欧米の文献における別な解釈の存在
次のように、国際的な権威ある文献では、このJISの参考と違った解釈である。したがって、これは日本固有のトラブルであろう。世界の常識は日本の非常識か。
@ISO本部発行”ISOニュース:2001/7・8月号“
アメリカ・マサチューセッツにある審査機関テュフ・マネジメントサービスの監査マネジャーであるグレイ・ミンクス氏の2000年改訂に関連して審査員の役割についての記事があり、審査員も勉強が必要だという意味で次の発言が掲載されている。
「ISO9001:2000規格は、是正処置でとった処置のレビューを要求している(8.5.2 f)。これは何を意味しているか審査員は『正しく』理解しているだろうか。用語集をよく勉強してレビューの項目(3.8.7)を見ればレビューは有効性の検証とある。これで明快である。企業が必要なのは、とった是正処置の有効性の検証である。とった処置が再発防止に有効性があったかの確認である。これが(8.5.2 f)の是正処置のレビューの『正しい』意味である。」
A「ISO9001:2000 Explained」(ASQ:American Society for Quality:
2001年発行、著者3名はTC176アメリカ委員:和訳なし)
「是正処置が実施された後、再発予防に『有効性』があったかを『レビュー』することを要求している」。さらに、追加説明として、「レビュー」3.8.7と「有効性」3.2.14について、用語定義を引用している。@のグレイ・ミンクス氏の説明と全く同じである。
B名著「中小企業のためのISO9000」94年版
「是正処置の実施後、それを記録し、それが計画した通り、引き続き有効であったかを知るために、妥当な期間、フォローすることが必要である。」
予防処置についても同様の説明がある。2000年版向けでは、この説明文は削除された。規格本文の8.5.2 e)、f)に吸収され、明記されたからであろう。
Cデニス・ダーカー(Dennis Darker)氏のコメント
氏はIRCAの主任審査員で、ヨーロッパの主任審査員のインストラクターであり、イギリスIQAのフェローでもある。私は氏を個人的に知っていたので、5年前このJISの参考は正しいかEメールで問い合わせた。返事は「ナンセンスNonsense」の1語で、一蹴された。
4.具体的なイメージ
こういう議論のとき、具体例を想定すると明確になる。8.5.2のa)からf)の順に想定する。
(1)事例
a)8月1日、工場で、未加工品が加工品に少数混入していることが発見され、確認された。
b)当日、原因は「未加工品と加工品の置き方が一定していない」ことが分かった。
c)未加工品の混入は、重要顧客クレームとなるので、対策をとることにした。
d)必要な処置(改善方法)は「左側に未加工品を置き、そこから1個づつ左手でとり、1個加工完了したら、すぐに右手で加工品は右側の箱に入れる」というものであった。作業台は、品物を置けないように狭くした。8月3日から毎日の生産に実施された。
e) 製造班長は、8月3日からの実施開始を現場で確認し、それを書類に記録した。
f)「未加工品混入再発防止」という「設定された目標」達成のため、「この改善方法」が適切であり、有効性があるかを判定するため(レビューのため)、1週間たった8月10日、製造班長は、加工済み品の箱を抜き取りチェックした。未加工品はなかった。この間、顧客クレームもなかった。この改善方法は適切であり「有効性」が十分ありと判断した(ISO9001に有効性の記録要求にはないが、書類に「有効性は十分にある」と記録した)。
(2)レビューの定義による検討
ISO9000:2000では3.8.7に「レビュー」の定義が次のようにある。3つの構成要素がある
「『@設定された目標』を達成するための『A検討対象』の適切性、妥当性、及び有効性(3.2.14)を『B判定するために行われる活動』」
これを前記の事例に当てはめると次のようになる。
@設定された目標
|
A検討対象(とった是正処置) |
B判定のための具体的な活動 |
未加工品混入再発防止 |
改善した作業方法 |
1週間後の加工品の検査 |
これをJISの参考のa)〜e)の一連の活動をレビューに当てはめると、下の表のように何をすることがレビューなのか、全く現実的なイメージがわかない。過去の記載内容に不備がないかを確認し、サインして終わりか。それにどのような意味があるのか。
区分 |
@設定された目標 |
A検討対象 |
B判定活動 |
a)
|
未加工品混入再発防止 |
8月1日の未加工品の混入状態? |
8月3日まで不適合品を保管? |
b)
|
8月1日の未加工品と加工品の置き方が一定していない状態? |
8月1日の改善前の写真を保管? |
c)
|
8月3日の対策の必要性の決定内容? |
? |
d)
|
8月3日の対策の内容と実施? |
? |
e) |
8月3日の改善実施の記録? |
記録の有無確認? |
5.レビュー方法の代替案
レビューをISO9001:2000の意図通りやるには、以下のような代替方法が考えられる。いずれも、生産管理システムとのリンク(統合ITシステム)がポイントである。
これらが、わずらわしいと思えば、JISの参考を理論的な武器に使い、やめるという代替案がある?この場合、ISO9001:2000ではなく、JISQ9001:2000の認証となろう。
No. |
レビュー方法 |
短所 |
改善方法 |
1 |
一定期間後に実績効果確認(事例の方法) |
2年に1回しかないようなものもある多品種少量生産では管理が大変。 |
量産品とそうでないものの管理を分ける。 |
2 |
不適合が発生したとき、過去の「とった是正処置」のものであるときは「再発」として明記。 |
過去の「とった是正処置」が有効だと、再発しないので、レビューが放任されやすい。 |
次のNo.3の方法をとる。 |
3 |
一定間隔で過去の「とった是正処置」で生産実績があるものは再発の有無を確認し、ないものは有効としてレビュー済みとして別にファイルする。 |
過去の「とった是正処置」と生産実績とをリンクする管理が必要である。「とった是正処置」の数が少ないと問題ないが、数が多いと管理の手間が増加する。 |
過去の「とった是正処置」を製品別、不適合内容別にパソコンで記録し、生産実績とリンクさせ、生産実績があり、再発していない場合、「有効リスト」を発行し、レビュー済みに移動する。 |
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