ISO14001:2004移行審査における順守評価方法の論議
(H17年9月3週号)

V社は100名程度の機械加工部品業者である。ISO9001:2000とISO14001:1996は、2年前に認証している。効率的な統合システム(統合マニュアル1冊で、他に管理規定なし)である。今回、ISO14001:2004への移行だけのB機関のT審査員の審査を受けた。

T審査員: 貴社は4.5.2の「順守評価」を定例の年2回の内部監査のときに同時に行っていますね。内部監査で法令順守がされていないことが分かると「内部監査不適合報告書」で不順守内容を不適合として記録される。順守されていて異常がないと、「内部監査不適合報告書」に「不適合なし」として記録される。どちらにせよ、「内部監査不適合報告書」が順守評価記録となっています。しかし、これは「納得できません」ね。
会社側: 規格の条文にそんなことは書いてありませんよ。
T審査員: 不適合ではないが、規格の意図に対して不十分です。
会社側: ????
T審査員: まず、法令順守状況の評価対象は、おたくでは12項目もあり、内部監査員が全項目をチェックするのは「大変」でしょう?
会社側: うちの「関連法令・規制一覧表」を見てくださいよ。うちの環境側面に関係する12の法規・条例のそれぞれの条項、規制値、届け出しの要不要など、それぞれのポイントなどが明記されています。それを見ながら内部監査員が質問し、条例などで記録や報告提出が要求されているものは、その控えの提出による監査で評価は簡単で、全部で30分くらいです。これを大変と言うんですか?「12項目も」といいますが、「12項目しか」と言えますね。大体、うちの社員がなんらかの関係をもっているので知っている内容ですよ。
T審査員: しかし、順守状況のチェックの責任を内部監査員に負わせるのは、「無理があります」ね。担当部門の責任者が自主チェックするのが妥当ですよ。おたくの責任者である総務部長がそれぞれの項目の順守状況をチェックした結果、問題が無かったという記録(「関連法令・規制一覧表」の摘要欄の○印でも良いし、チェックリストでも良い)が、規格が要求している記録です。内部監査員がその記録を確認して、「不適合無し」ということであれば「理解できます」
会社側: 規格はそんな細かいチェック方法まで要求していませんよ。
ところで、「順守」と「その評価」は次元が違うんじゃないですか。法令・規制の「順守」は担当責任者にとっては「日常的」ですが、その順守の「評価」は、「定期的」ですよ。そこに規格の「定期的」の意味があると思いますよ。
うちの法令順守の主管部門は、総務部ですが、その担当部長が自己評価したのでは、評価の信頼性が低下するんじゃないですか?しかも、うちは中小企業なんで、総務部長が実は実務担当者なんです。公平性、独立性を強調した内部監査員がやったほうが、常識的に評価の信頼性がありますよ。
それに、内部監査員が評価したからといって、順守の責任を負うわけではないでしょう?内部監査員が担当責任部門に対し総務部長の順守の責任を追及するのが内部監査じゃないんですか?これはSO9001:2000の内部監査と同じですよ。
T審査員: 2004年版は順守評価の項が、4.5.2として独立し、強調しています。だから、私の言った記録を追加して行うべきです。これは明確な不適合ではないですが、当審査機関としても法令順守評価を重視しているので、別な審査員が来ても同じ指摘をすると思いますよ。
会社側:

2004年版改訂で法令順守評価が強調された趣旨は知っています。しかし、逆に、96年版の「順守評価の文書化した手順」要求はなくなりました。2004年版の法令順守評価の強調と書類の増加とは、規格要求では逆の関係ではないですか?
あなたのご提案だと、総務部長の信頼性の低いムダな自己評価記録が増加するだけです。規格の強調イコール書類の追加というのはおかしいですね。

T審査員: ――――。いずれにせよ、貴社で検討してください。書類には残しませんが。

私のコメント
V社の「内部監査評価方式」は不適合ではない。だから、この会話はT審査員がこれに代わる自分の「総務部長自主評価方式」を売り込む付加審査の場であり、コンサルティングの場でもある。ところが、「12項目も」「納得しない」「無理である」「大変である」「理解できる」「規格が要求している」というような主観的な、高圧的な売込み方法である。審査員にはその売り込み方法は、常識的に稚拙な方法であるという自覚がないようだ。
通常、改善コンサルタントは、企業に自分の提案を説得して納得させるには、このような方法はとらない。それは企業側に嫌われ、嫌な押し売り商売とみなされるのが落ちであるからだ。2つの代替案を客観的に比較してみる姿勢が不可欠。
この場合、「内部監査評価方式」のほうが規格要求を満たし、かつ、無駄がないので効率性ですぐれている。

T審査員は、ムダな書類の増加がそのままシステムのレベルアップであるという思い込みに縛られ、柔軟な思考ができていないことが大きな原因(このホームページの「基礎知識コーナー」の「2つの違った品質保証のパラダイム(paradigm):H15年3月1週号」参照)。
審査員の提案は、企業業績の立場からの冷静な両案の費用対効果の比較の上にたっていると企業に心から歓迎されるであろうがーーー(このホームページの審査/コンサル経験談コーナーの4.の「アイソムズ」04年12月号特集:適合性審査とその付加価値:H16年12月1週号外参照)。