情報公開と書類作りの企業負担
(H17年11月4週号)

旧聞になるが、7月上旬のNHKの「クローズアップ現代」で、金融庁が企業の情報公開に関して法制化を検討しているという特集があった。
アメリカとの取引で情報公開が必要になり、それに対応したリコーの例が紹介されていた。それは、業務の帳票の流れを書いたフローチャート作成が中心で、大きなフローチャートが約7千枚、費用は8億円かかったという。これは一時的な費用と言っているが、これに追加して改訂管理の費用も大きいであろう。リコーはISO9001も取得しているから、それをはるかに超える書類であろう。

楽天の三木谷社長は、この金融庁の検討委員会のメンバーということであるが、NHKのインタビューに答え、このようなコスト負担を企業が負うことは、企業の利益を圧迫し、結局、株主の得にはならないのではないかと言っていた。

一方、グローバル経済の中で、国際的なルールに従う必要があるから、このような情報公開のコストの負担はやむをえないというある大学の教授の説明があった。日本人は以心伝心のツーカーで仕事をしているので、このような書類作成が必要であると言っていた。
しかし、近代的な産業でIT化も進んでいる日本企業がツーカーで仕事をしているはずがない。
そんなツーカーで仕事をしていたら、企業は国際競争に打ち勝ち、生き残っていないであろう。現場を知らない評論である。

この問題で論じてられていなかったのは、リコーの例のように、詳細で膨大な業務フローチャートが企業の実体の情報公開になると本気に信じているのかという点である。三菱自動車、カネボー、橋梁工事会社、JEKスチール、石原産業、建設設計の耐震データの虚偽などなど、枚挙に暇がない不祥事は、書類がごまかしの温床であることを示している。それに対して「もっと多くの書類を作れ」というのは、問題の真因に全く無知である。

たくさんの書類を書いていたからといって、三菱ふそうの問題は避けられなかった(このホームページの「品質・環境問題に関する社会問題」コーナーの「三菱ふそうのリコール問題とISO9001:2000:H16年6月2週号」参照)。三菱重工の客船火災事故はさけられなかった(このホームページの2000年版項目別分類コーナー4.2の「客船火災の真因と是正処置:H15年11月2週号」参照)。膨大な書類は、継続維持ができず虚偽か形式化を生む。書類は独り歩きを始め、恐ろしいことに関係者のモラル低下を起こす。

7千枚のフローチャートは誰が見るのか、株主なのか、7千枚のフローチャートを見て株を買うのか、外部の人間が7千枚のフローチャートを本当のことを書いているのか見てわかるのか、業務フローが改善などで変更した場合その改訂管理がきちんと行われると信じているのか、フローチャート通りに実際に行われていると誰がどのように管理するのか、ムダな業務もフローチャートに立派に書かれていても問題としないのか、そのムダは誰が判定できるのか。社長はそこまで責任をもって見ることはできるのか。

ある会社の株を買うなら、詳細な業務のフローチャートの有無より、経営者の洞察力と従業員の客観的なモラル(DNA)調査による会社の体質公開のほうがはるかに正確である。しかし、それでも、経済の明日のことは分からないというのが大人のバランス感覚である。