アイソムズ」05年5月号特集「ISO14001:2004版への移行のポイントと実践」

増加した“shall”項目へいかに対応するか

西沢総合研究所 所長 西沢隆二

「編集室
ISO14001:2004版移行にあたり、環境マニュアル改訂が当面の作業となるだろう。すでに周知のとおり、2004年版においては“shall”項目数は、96年版に比べて増加しており、その対応をいかにして行うかが重要なポイントである。本項では、ISO14001:2004への移行にともなうマニュアル改訂について、西沢隆二氏に解説をお願いした。(編集室注:下線太字は要求事項の改訂点、下線のみはマニュアル改訂の主要ポイントを示す)」

1.移行状態
当社では、96版のときより、無用な企業負担を避けるため、管理規定はなく、「環境マニュアル」1冊(20頁程度)で環境マネジメントシステムの全体(全部のshall)を記載してきた。ISO9001:2000を取得済みの企業の場合は、管理規定ゼロで統合し「品質・環境マニュアル」1冊(50〜60頁程度:項目構成はISO9001:2000に準拠)を作成してきた。この場合、改訂を先取りしているので、ISO14001:2004への移行は容易である。
現時点で300人以下の部品製造の中小企業であるが、「品質・環境マニュアル」で1社、「環境マニュアル」で1社が、管理規定ゼロ、不適合ゼロで移行認証を完了している。

2.改訂の概要
改訂版では手順の文書化要求は、順守評価手順と、監視及び測定の手順の2つは削除され、「4.4.5運用管理」のみに軽減された。しかし、shall数では52から60、a),b)などのサブ項目では72から101と増加している。これは、ISO9001:2000との整合性を持たせたり、96年版の要求の明確化をしたりした分だけ、要求内容が細かくなったためであり、大きな変更はない。その観点から、紙数の都合上、マニュアル改訂の主要ポイントにしぼり、以下規格項目順に説明を行う。

3.「4.1」環境マネジメントシステムの適用範囲の明確化要求
4.1及び4.4.4のb)で適用範囲の明確化が要求されており、かつ、文書化要求がある。
サイトの適用範囲は、マニュアルに企業の住所と敷地面積程度を明記すれば十分である。環境側面の適用範囲は次の環境側面の明確化要求と関連するので、そこでふれる。

4.「4.3.1」企業が特定する環境側面の範囲の明確化要求
今度の改訂で、特定する環境側面が、「管理できる環境側面」と「影響を及ぼすことができる側面」の2つを明確に分離した。例えば、自動車メーカーで有害なガスの排出を減らすように設計するのは「管理できる環境側面」であるが、買った顧客が無駄なアイドリングをして排気ガスを出すのは、管理できないので「影響を及ぼすことができる環境側面」となる。このため、96年版の環境側面に管理外の「影響を及ぼすことができる環境側面」を企業が自主的に追加する必要がある。これをマニュアルに明記することになる。
部品メーカーは、部品納入後は、顧客が組立製品を作り、その管理下に入るので、実務的には「環境フロー表」(表1)の例の下線部分のように、最後に1行追加することで対応することができる。なお、この表は他の表と同様、紙数の都合上、ある様式モデルを示すためであり、実際には、中小企業でも20頁くらいになる。マニュアルでは「環境側面の適用範囲は『環境フロー表』に示す。」と明記する。すなわち、顧客管理下を明記することで、その他の環境側面は適用範囲であることを示したことになる。

表 1
インプット
業務
アウトプット
環境側面
鉄材
機械加工
鉄くずの発生
産廃の発生
電力
電力の使用
電力消費
溶剤
揮発ガスの発生
有機ガスの発生
加工機械
廃棄機械の発生
産廃の発生
当社製品
当社製品の顧客使用
廃棄物の発生
産廃の発生(顧客管理下)

5.「4.3.1」環境側面及び著しい環境側面の文書化要求
規格の「4.3.1 環境側面」の改訂で、「環境側面」と「著しい環境側面」との順序関係が明確になった。まず、企業全体の環境側面を特定し、次に、それらの環境側面から著しい環境側面を決定する2つのステップになる。その手順をマニュアルに明記する(図1、表2参照)。96年版での方法がこれにそっていれば、マニュアル変更なしで対応できる。

図 1

6.「4.3.2」法的及びその他の要求事項の環境側面の適用の明確化要求
「4.3.2 法的及びその他の要求事項」で「これらの要求事項を環境側面にどのように適用するかの決定」の明確化が要求された。「環境側面・環境影響評価表」(表2)の様式モデル例は、自社の標準的な環境パフォーマンスを測定し、環境影響評価基準により評価欄に5段階評価し、5点の評価となった環境側面を著しい環境側面として決定している例である。この際、表2のように、関連する法的及びその他の要求事項の考慮もしている。これは、96年版から一般的な方法であるので、その場合は、マニュアルの変更はない。

表 2
環境側面
環境影響
適用法規
当社基準環境パフォーマンス
通常処理
評価
著しい環境側面
廃油の排出
水質汚染
水質汚濁防止法
○○リットル/月
認定産業廃棄物処理業者引取
ガスの排出
大気汚染
大気汚染防止法
ガソリン、プロパン使用量、 ○リットル/月 大気へ放出

 

7.「4.3.3」環境マネジメントプログラムの目的の明確化要求
96年版の「環境マネジメントプログラム」の計画対象が環境目的・目標の達成のために限定されることが明確化された。
96年版のときから、そのように対応している企業がほとんどと考えられる。その場合は、マニュアルの項目変更だけで、内容変更はない。

8.「4.4.2」教育訓練範囲の拡大要求
96年版は、「環境に著しい影響を生じる可能性のある作業を行うすべての要員」に訓練を要求していたが、改訂版では、環境側面及び環境マネジメントシステム全体に関わる要員にも訓練とその記録を要求している。

9.「4.4.3」外部コミュニケーションの計画の明確化要求
改訂版全般を通じて、問題なのは「文書」と「記録」が不明確なことである。文書は「4.4.5 文書管理」の要求に、記録は「4.5.4 記録の管理」の要求にと、それぞれ別な要求にしたがうので、文書と記録の相違が明確でないとどちらの管理に含めるべきかで混乱する。
文書と記録の基本的な違いは改訂の有無である。この重要な相違点は、ISO9000:2000の用語定義3.7.2「文書」の参考3で述べられているが、ISO14001:2004では、この参考3だけは削除されている。この「4.4.3」でも、「外部コミュニケーションを行うかどうか決定し、その決定を文書化すること」と明確化されたので、「外部コミュニケーション計画書」が新規に必要となるが、これは改訂があり得るので「文書」である。一方、外部からの受付け、対応の結果は改訂(改ざん)できないので「記録」である。「文書」と「記録」の相違を考慮すると、「4.4.3」は図2のようになる。文書と記録の区分を正しく理解することが、正確で分かりやすい改訂版のマニュアル作成の重大なポイントである。

図 2

10.「4.4.5」ISO9001:2000と同様の文書管理要求
実務的には、大きな変更はない。指定期間の保持要求はなくなった。削除が必要である。

11.「4.5.1」監視及び測定の監視文書の要求
「パフォーマンス、適用可能な運用管理並びに組織の環境目的及び目標との適合を監視するための情報の文書化を含む。」と変わった。しかし、これは96年版同様に記録である。

12.「4.5.3」不適合、是正処置、予防処置に対するISO9001:2000と同様の要求
原因の特定、対策の実施結果の記録など、ISO9001:2000と同様な手順や帳票様式(「不適合対策書」様式など)が追加されることになる。

13.「4.5.4」shall記録の要求増加
文書と記録を正確に区分しカウントすると、96年版のshall要求記録は6項目で、改訂版では、4.5.2順守評価の記録、4.5.5内部監査の記録の2つが増加し、8項目となった。

14.「4.6」マネジメントレビューのインプットの詳細な要求
インプットが明記され、詳細になった。表4は、この改訂に対応したマニュアルでのインプット明記例である。この企業は、定期的な順守評価を内部監査で行うシステムにしている。不適合がない場合でも部門別に「なし」と報告する方法をとっている。

表 4
インプット要求項目
対応する当社書類名
内部監査の結果、順守評価の結果 「内部監査不適合報告書」
外部の利害関係者からのコミュニケーション 「外部コミュニケーション記録書」
環境パフォーマンス 「環境マネジメント月報」
目的及び目標の達成度 「環境マネジメント月報」
是正処置及び予防処置の状況 「是正処置報告書」「予防処置報告書」
前回までのマネジメントレビューの結果のフォローアップ 前回の「マネジメント・レビュー記録書」
変化している周囲の状況 「環境マネジメント月報」
改善のための提案 「環境マネジメント月報」