ISO9001が経営に、ひいては利益に貢献することを期待する経営者は多い。しかし、その思いが現場に伝わらず、苦慮している経営者も多いだろう。経営者がイメージするISO9001を具現化するためには何が必要なのか。中小企業の実態に詳しい西沢氏に、経営者の責任と役割について話を聞いた。
経営と現場の切り分け
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本誌: |
現在、中小企業の経営者はどのような理由でISO9001を取得する傾向にあるのでしょうか。
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西沢: |
中小企業がISO9001を取得する理由としては、相変わらず取引先からの要望がほとんどです。また、競合他社の取得などから自社もとらなければいけないのではないかと考えることも多いようです。
もちろん、経営者の中にはよく宣伝されているようにISO9001が「経営に役立つ」と期待している向きも多いようで、私もコンサル先で「ISOは本当に経営に貢献するのか」とよく経営者に聞かれます。逆に管理責任者から「社長から“経営に役立つISOにしろ”といわれて困ってる」と相談されることもありますが(笑)。
ただ、経営者としては外圧で取得するにしても、やはり無駄にはしたくないという思いを持っていることは間違いありません。
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本誌: |
その思いがなかなか結果に現れずに苦労しているケースが多いと思います。原因は何でしょうか。
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西沢: |
中小企業は大抵の場合、オーナーがトップですから利益追求の意識は非常に高い。そこは大手企業のサラリーマン社長とは比較になりません。
しかし、一方で経営者はマネジメントのトップでもあるわけですが、中小企業の場合、マネジメントの方法を知らない経営者がたくさんいます。具体的な例としては、役割分担がはっきりしないことがあげられます。少人数ですから兼任で動かないと仕事にならないという背景もありますが、その弊害として責任の所在があいまいになってしまうことが多く見られます。ひどいところでは、経営者自身が役割分担を決める責任を放棄するところさえあります。
これはISO以前の問題ですが、人使いはマネジメントの基本ですから、経営者は適材適所で人材活用ができる、人を見る目が必要です。ISO9001はマネジメントシステムなので、きちんとこれを求められます。
さらに、経営者自らの責任を理解することも重要です。中小企業の場合、社長自らが営業マンとして飛び回っているケースはよくあります。経営者が現場を知ることは良いことですが、経営者の役割とうまく切り分けができていないケースも見られます。要するに、自社全体をシステム的に見渡す経営者の役割を忘れたり、面倒だという先入観で避ける経営者がよくいます。
その切り分けがうまくできるようになることがまず第一歩です。そこから自社のマネジメントシステムを見て、これではではいけないと気づくようになれば、効果的な課題が自然に明確になってきます。
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ISO9001導入の戦略
| 本誌: |
戦略とは。
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| 西沢: |
経営者がどのような具体的な目的や達成方法を戦略でISO9001を導入するかということです。
ある中小企業の例ですが、そこの経営者は、ISO9001導入にあたって1つの目的として「検査工数を減らせ」を指示しました。品質保証であるISO9001を導入するのに検査工数を減らすとは一見矛盾しているようですが、そうではありません。この経営者は検査工数を減らすには、設計を含む工程の改善による品質向上が不可欠であるという正確な理解がありました。経営者の狙いは、この具体的な指示により、ISO9001を通じて経営者としての考え方を現場に徹底させることでした。
ISO9001が文書作成のことだと誤解している経営者はたくさんいます。一般的な方法で担当者まかせだと無駄な文書があふれます。無駄を省くため何が必要で何が必要でないかを、それまで抽象的に考えていたものを実務に下ろしてみることです。これにより、自社にあった個別論が可能になります。この作業に経営者が入ればISO9001の理解が抽象的でなく具体的にでき、決定も早く、また経営者が何を考えているのか社員に具体的な形で伝わるので理解が深まり、非常に効果的です。このように経営者と現場が直接やりとりをできることも中小企業ならではの利点です。
つまりこういう方法でISOを取得するという戦略が必要で、経営者がきちんと判断し徹底させないで担当者任せにすると、肝心なところでバックアップできず、マイナスのISO9001となります。経営者がいい加減にやっていれば、当然実務もいい加減になり、無駄が増えます。
経営者が強い意志と実務の理解を持たないため、審査の場面で審査員に的外れな指摘をされても反論できず、せっかく作った効率的なシステムを経営者自ら崩す例があります。
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管理責任者は社内から
| 本誌: |
先ほど人使いについてお話がありましたが、管理責任者の任命について注意すべき点はありますか。
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| 西沢: |
中小企業の経営者が考えがちな間違いとして、ISOを誤解し、導入時に、大手企業で品質保証業務に従事していた人間を雇用して管理責任者にすることがあります。しかし、大手の人ですから、中小企業の現場を知らす、実態に合わないなど、弊害が大きいものです。むしろ子飼いの社員を管理責任者として育てる方が良いでしょう。ISO準備で外部から人を入れる場合、子飼いの管理責任者の実務を肩代わりさせ、空いた時間を子飼いの管理責任者のISO準備に使うようにすることです。
また、認証を長く維持している会社で、管理責任者が退職するなど、何ヶ月かブランクの状態になってしまった会社があります。定期審査が近くなるとあわてて新しい人間を管理責任者に任命して対応するというケースです。経営者が無関心だとこのようなことが起こります。
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方針・目標管理、本来の狙いとは
| 本誌: |
方針管理については。 |
| 西沢: |
ISO9001にTQC型の方針管理を組み合わせて使っている企業がよくあります。TQC型とは、経営者が設定した方針をブレイクダウンして全従業員に個人目標を設定して管理するものですが、現実的ではない面があります。これは企業は個人でなくシステムで動いているからです。
例えば、コンベア作業などの共同作業の場合、個人目標よりグループで目標を持つことが活性化につながります。
しかし、品質目標の設定でもっとも重要なことは、中小企業では経営者と現場で目標をすり合わせることです。目標管理だとして、経営者が現場とのすりあわせなく強引に抽象的な目標を下ろしている事例をよく見ます。例えば「コスト3割削減」などといわれても、コンベア作業では個人レベルでは改善のネタがないので、強制すると抽象的な作文となります。それを避けるため、経営者はどこでコスト削減を図るか、重点を決める必要があります。フセインのような恐怖政治では方針管理は無理です(笑)。形は同じでも運用はまったく違います。
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| 本誌: |
そのように目標を設定し計画し実行しても、目標を達成できない、という例も多いようです。 |
| 西沢: |
そのような場合、そもそもの目標が先述のような形ばかりの「こうしたい」という経営者の願望であることがよくあります。根拠、データ、現実的な達成手段を煮詰めることが不足しているのが原因です。
どのラインに、どの工程に、どのように技術的に絞って改善を行うのかという計画が必要です。さらにそれを達成するためにどのような経営資源を投入するか、まったく考えてないことがあります。スローガン主義では最初から達成は不可能です。
トヨタ生産方式では不良ゼロのポカヨケがありますが、一台一台のオプションが違う組み立て作業は、技術的にポカヨケはむずかいしと思います。
しかし、それで諦めません。何をするかというと、定期的にラインを5分間停止し、自分の組み立てた車を再確認します。それでも完璧とはいえませんが、そのためにラインを止め、5分間を犠牲にすることをリーダーが決断しているわけです。次善の策でもそこまで必死で行う覚悟がリーダーに必要です。
ところが、多くの企業では、クレームの原因などをすべてポカミスにしてしまうケースがよくあります。それで諦め、誰がいつどこでミスをしたのか、最初から徹底的な追求をと次善の策でもいいから手を打つことをしないで、すべてポカミスにしてお手上げです。ときにはポカミスでないものまでポカミスにしてしまう(笑)。あげくに、クレームが増えた原因として「受注が増えたから」という変な回答を平気で出したりします(笑)。経営者はこの姿勢に注目していなくてはなりません。
アメリカのデュラン博士は日本に品質管理を紹介した一人ですが、彼は1980年代にアメリカの経営者を批判していました。
アメリカの経営者は方針を出すばかりで、権限委譲ばかりしていると。日本でも同じことがISO9001取得企業で起きています。ISO9001的な目標管理を行うのであれば、その本来の狙いは経営者の実務面への関与であることを理解すべきです。
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システム改善から技術改善へ
| 本誌: |
ISO9001導入を利益につなげようとするならば、経営者はどのような点に経営資源を投入すべきとお考えですか。 |
| 西沢: |
ISOを利益に結びつけて考えることは良いことだと思います。少ない例ですが実際に成功している例もあります。
企業の利益追求とISO9001と結びつけるならば、やはり技術改善とを結びつけなければならないと思います。
私は品質が向上したり、クレームが減ったりする基本的な要因は、技術が向上することだと思っています。その技術の向上をサポートするのがマネジメントシステムです。技術の向上なしにマネジメント優先でまわしても、企業の品質向上、利益向上は期待できません。例えば、今まで三つの工程で行っていたことを一つに集約するなどのノウハウが生まれない限り、コスト削減も品質の向上もありえません。ですから改善活動をマネジメントシステムの改善ととらえるよりも、設計や第一線の現場作業を技術的に改善することに重点を置いた方がいいでしょう。
実際に品質目標の計画書などを見ても、具体性がなく技術要因については非常に甘い計画をしているケースが多く見られます。
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| 本誌: |
品質は現場で作られるものだと。 |
| 西沢: |
品質管理は品質保証部門が行うというのは誤解です。品質を作るのは設計を含む現場技術です。品質保証をいくら強化しても品質向上や利益にはつながりません。
検査で品質保証をするのではなく、作った人間が技術で保証するものです。経営者がそのように理解している会社は現場の技術力が非常に高い。
品質管理とは「品質ヲ管理スル」ことではありません。品質の実態は不良率などのデータで、これは静的なものですから管理できません。
正しくは「品質デ設計も含む生産工程ヲ管理スル」こと、つまり品質という観点で第一線の仕事を管理することです。
「品質ヲ管理スル」と考えているとデータと現場との因果関係がピンとこない。だから、問題が起きたら、現場へ行き、現物を見て、現実的に考える「三現主義」が品質管理の基本なのです。
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ISO9001を使いこなす経営者の知恵
| 本誌: |
そのような考え方をISO9001で実現するためには、どのようなシステムが必要でしょうか。 |
| 西沢: |
ISOのよいところは、最低限のトータルシステムであるということです。つまり経営者責任から始まり、営業、設計、購買、製造と各部門が一体となって含まれている点です。そのシステマチックな点を生かすことが必要です。しかし、ISO9001だけでは直接的な技術改善に影響しません。そこに「ムダトリ」や「真因追求」などのトヨタ生産方式の考え方を入れるといいでしょう。ただし、トヨタ生産方式は現場の仕事のやり方が中心ですから、それを全社システムのISO9001と接合する。さらに中小企業でも進んでいる生産管理のIT化で、ISO9001の文書管理や記録管理の簡素化を行う。その三本柱の統合でISO9001が企業に役立つ、ひいては利益に結びつくシステムにできると思います。せっかくそれぞれのコストを投入しながら、この三つがバラバラの中小企業が多いようです。
結局、経営者には知恵が必要です。そもそも知恵のある経営者ならばISOがなくてもうまくできるでしょうが(笑)、その経営者がISOを取り入れれば、システムとして定着でき、強力な武器となるでしょう。
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| 本誌: |
最後になりますが、経営者へ向けて一言アドバイスをお願いします。 |
| 西沢: |
ISO9001はマネジメントシステム規格ですから、本来は管理者のための規格であって現場作業者のための規格ではありません。ですからISO9001に取り組めば管理者の仕事が増えるはずです。ところがISO9001取得企業によっては現場の仕事が増え、管理者は判を押しているだけ(笑)。
ISO9001がその真価を発揮できないのは、経営者も含め、本来管理者が行うべきことを現場に押しつけるからではないでしょうか。その結果、現場はISO9001に対して感覚的に「無意味な仕事が増えた」と不満を持ちます。経営者がその実態を知らず、「効果を出せ」と担当の尻を叩くだけではISOは失敗です。形式的なISOでは経営者の意識も変わらないし、経営者が理解していなくても認証は取れるので余計悪い(笑)。
ISOほど経営者の考え方で効果に差が出るものもないでしょう。マネジメントシステムをうまく動かすには経営者がしっかりした考えを持つ必要があります。そのためにISO9001にある「経営者の責任」をもう一度よく読んでもらいたい。抽象的ですが、よく咀嚼して理解すればいいことが書いてあると思います。
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| 本誌: |
本日は貴重なお話をありがとうございました。 |
(取材:本誌・編集室)